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第4話 再愛

last update Last Updated: 2025-09-20 06:07:00

「ホントに?」と驚きながら聞く律樹。

「うん……」と、ようやく頷いた私の顔は、既に涙でいっぱいだった。

これから、また2人には、厳しい試練が待っているのかもしれない。

それでも、律樹と2人なら乗り越えられるような気がする。根拠なんて何もない。

ただ1度離れてみて、2人の絆がより強いものになったと思えるからだ。

再び始まった愛。

──もう離れたくない

ただ、それだけ……

「あ〜! 泣かなくて良いよ」

と律樹は慌てて涙を指で拭ってくれているが、追いつかないようだ。

以前は、どちらかというと硬派で寡黙で口数が少なかったのに、今日は一生懸命に話してくれる律樹。

久しぶりに会って、いっぱい話してくれていることに、私は驚いているほどだ。

黙って抱きしめてくれる。

──やっぱり律樹だ!

こういうところは、4年もの間付き合っていたのだもの、お互い黙っていても分かりあえる。

以前のように戻った感覚で嬉しい。

今日、こっそり律樹が仕事をしている時の顔を

何度も見ていた。初めて見る仕事中の顔。

仕事の時は、真面目な顔でキリッとしてカッコ良かったのに、2人の時は目尻が下がって甘々だ。

私にしか見せない顔

私だけが知る特別な顔

──嬉しい

そして私は、

「ちょっと待ってね」

と、律樹から離れて、バッグから自分のスマホを取り出した。

そして、また律樹とメッセージでのやり取りを再開すべく、ブロックを外した。

〈よろしくお願いします〉の猫のスタンプを律樹に送った。

その画面を見ながらニコニコと喜んでいる。

そして、律樹もテーブルの上に置いていたスマホを手に取り、

〈よろしくお願いします〉の可愛いうさぎのスタンプを返して来た。

「え? 何? この可愛いうさぎ〜ふふふ」と、私は思わず笑ってしまった。

「可愛いだろう?」と律樹が笑っている。

「なんか似合わないよ〜」と、笑ってしまう。

「なんでだよ! このギャップが良いだろ?」と自分でも笑っている。

「いや〜なんか違うと思うなあ〜」

「そうか〜? んなことないだろう!」

「ふふふふ」

──また始まった。笑い合えてる。

嬉しい! ずっと、こうなりたかったんだ

そして、お店から律樹が借りているマンションへは、すぐだからと、移動しようと言う律樹。

「でも、明日も仕事だし、下から見るだけだよ」と言うと、

「分かった」と嬉しそうに笑う。

そして、2人でお店を出た。

律樹がご馳走してくれた。

「ありがとう! ご馳走様でした」と言うと、

「ううん、今度は、もっと豪華な物、食べに行こうな」と言う。

「豪華じゃなくても良いの! 何を食べるか、も大事だけど、誰と食べるかがもっと大事なんだから」と言うと、

「ク〜ッ、だよな!」とニコニコしながら、

スッと、手を繋がれて歩く。

··すらも既に懐かしい。

──誰にも邪魔されず、ずっとこうしてたい!

「あ、課長就任のお祝い、しなきゃね」と言うと、

「お祝いしてくれるの?」と嬉しそうに笑う。

「うん」

──今は、それだけが望みだ。

そして、

本当に数分だけ歩くと、「ココ」とマンションを指差した。

「あ、そうなんだ! へ〜綺麗な所だね」

割と新しく綺麗なマンションだ。

「じゃあ、今日は、帰るね」と言うと、

「ホントに寄ってかないの?」と言って手を離さない律樹。

チラッとスマホの時計を見た。

今日は、定時に会社を出たので、まだ19時を過ぎたところだった。

「部屋、ちょっとだけ見て!」と、半ば強引に私の手を引っ張ってエレベーターまで歩く律樹。

「う〜ん、部屋、見るだけだからね」と言うと、

「うん、少ししたら送って行くから、とりあえず見てよ!」と言う律樹。

律樹がどんな部屋に住んでいるのかは、私も正直興味があった。

ピーンと、8階に到着した。

「8階なんだ」

「うん」

端っこの部屋の鍵を開けて、

「どうぞ」と言ってくれたので、

「お邪魔します」と玄関に入り、先に律樹に上がってもらった。

そして、私もパンプスを脱いで上がり、

自分のと律樹のも靴を揃えると、

「あ〜そういう所も好き」と言う律樹。

「ふふ」

私は母から常に、挨拶をすることと、時間を守ること、それに靴を揃えること! を口煩く言われていたから、今でもそれを守っている。

──母には、他にも教えてもらったことが沢山あるな……もっと教えて欲しかった

律樹に続いて中へ……

物は、少なくシンプルでスッキリしている。

中に入って、東南の角部屋だと聞いた。

「え? 東南の角部屋なんてよく空いてたね?」

「うん、絶妙なタイミングで空いたんだよね! 俺持ってるだろ?」と言っている。

それに……

1人なのに、2DKもある。

『みありが見つかったら、一緒に住もうと思ってた』と言っていた。

「ほら、みありの部屋もあるよ」と、空いている部屋を見せてくれる。

私には、勿体ないほどの部屋。

また、私は、困惑した顔をしていたのだろう。

「すぐじゃなくても良いから、来たくなったらいつでも来て」と言う律樹。

「家賃勿体ないよ」と言うと、

「そう思うなら、早く来てよ」とニッコリ笑いながら言う。

「……考えとく」と返すと、

「え〜! ったく、ホントに強情なんだから……」と、抱きしめられる。

本当は、凄く嬉しいし、今すぐにでも引っ越して来たい!

離れていた分、一緒に居たいと思う気持ちは、私も同じだもの。

でも、島田さんの報告次第で、また律樹のご両親から何らかの圧力がかかるかもしれないと、まだ私は思っている。

律樹には、以前お母様から電話があったことを話していない。

どこで調べたのか、以前は、実家の固定電話にかかって来たのだから。

母に話そうと思ったのかもしれないが、たまたま実家に帰っていた私が電話に出たものだから丁度良かったのだろう。

もう去年母が亡くなり実家に住まなくなったので固定電話は解約した。

又どこかから私の携帯電話の番号も調べるのだろうか……

そんな風に、ビクビクしながら過ごすのも辛い。

「何かあるの? みありも俺と会いたいと思ってくれてたなら、どうしてそこまで頑なに拒むの?」と聞かれた。

何も言わない私を見て、律樹は、続けて、

「もしかして、ウチの親から何か言われた?」と察したようだ。

あの時は、律樹には、もう会わない! と決めていたから、それを伝える必要もないと思っていたが、又こうして会ってしまったし、やっぱり一緒に居たい! と思っている自分が居る。

だから、隠さずに伝えるべきなのだろうか……

律樹を傷つけてしまわないだろうか……

と悩んでいた。

私が驚いて、律樹の顔を見たものだから、

「やっぱ、そうだったんだ!」と言われた。

「母から?」と聞かれたので、

「うん……」と頷いた。

「そっか、おかしいと思ったんだよな! 急にみありが黙って居なくなるなんて」と言った。

「ごめんな、嫌な思いをさせて」と、又ぎゅっと抱きしめてくれた。

「でも……私もその方が良いと思ったから……」

「どうしてだよ?」

「私……子ども産めないし……」と言うと、

「そんなの関係ないって言ったでしょう? 俺は、みありと居られれば、それだけで良い!」と言われた。

「でも、ご両親はそうは思われてなかったみたいだし、私が一緒に居ると律樹に迷惑がかかると思ったの」と言うと、

「そんなこと言わないでよ!」と悲しそうに言った。

「俺は、ずっと みありと居たかった! 居なくなってそれがもっともっと強く分かったんだよ。だから、俺のことを思うなら居なくならないで! ずっとそばに居て!」と言った。

──私だって、一緒に居たい!

「一緒に居ても良いのかなあ?」と言うと、

「居てくれなきゃ困る! 俺が俺で居られなくなる」と必至で言う律樹。

あまりにも強く言うものだから、

「ん?」と聞くと、

私が居なくなってから、律樹は仕事も手に付かず、ミスばかりして数日間会社を休んでいたようだ。

復帰したのは、こんな姿を私に見せられない! と思ったからだと言った。

だから、それからは仕事をバリバリ熟して、

次々と成功を納めたからヘッドハンティングの話が舞い込んで来たのだと言う。

そして、親にも『1人暮らしをする!』と宣言して家を出て、その上で私探しを本格的に開始したようだ。

もちろん私が居なくなって、すぐにも探してくれていたようだが、実家の場所は、まだ律樹には教えていなかったから分からなかったようだ。

私は、友達にも連絡する暇もなかったので、誰にも知らせずに逃げるように実家へ帰った。

使っていたSNSも一切更新しないままだったし、律樹からのメッセージは全て拒否していた。

だから、届くはずなど無かったのだ。

「だから、みありの居ない生活は、もう考えられない!」と言う。

私もそうだった。

母の介護をしながらも、やっぱり、ふとした時に律樹のことを思い出し、

──今頃、律樹どうしてるのかなあ?

元気にしてるのかなあ?

風邪、引いたりしてないかなあ?

会いたいなあ〜

と、ずっとそう思っていた。

忘れることなんて出来なかった。

母は、私が時々暗い顔をしているのを見ていたようで、亡くなる数日前に、

『みあり! 貴女は、一緒に居たい人と居なさい!そして、幸せになって!

大変なこともあるかもしれないけれど、愛する人を信じなさい! その人とだったら乗り越えられるから』

そう言ってくれた。

私が律樹のことを忘れられないのを分かっていたのだと思う。

急にデートにも出かけなくなって、律樹のことを話さなくなった。

『病院へは、そんなに頻繁に来なくて良い』

と言われていたのに、ほぼ毎日行っていたし。

別れてしまったのは、見え見えだった。

「律樹と結婚したい!」と母には言っていたのに……

突然、

「もういいの!」

なんて強がっていたのも母は、分かっていたから、きっとそう言って励ましてくれていたのだと思った。

それが母の遺言になってしまった。

10月20日、もうすぐ、母が亡くなって1年になる。

1周忌が過ぎたら、母に報告して私は、律樹と連絡ぐらいは取ろうと思っていた。

でも、又私が躊躇するんじゃないかと、きっと母は心配していたのかもしれない。

だから、律樹と再会出来たのは、もしかすると、母からのプレゼントなんじゃないかと私には思えた。

母が背中を押してくれた。

きっと母には、何もかも分かっていたのだろう。

律樹に、そう話した。

「だって、あのままなら絶対もう会うことなんてなかったんだもの。まさか、同じ会社に転職してくるなんて、思いもしなかったよ、驚いた!」

と言うと、

「そうだよな。偶然が重なって、同じ会社に来られることになったんだもんな。みあり! やっぱり俺たちは離れられないんだよ」

また、ぎゅっと抱きしめられる。

「一緒にお母さんの1周忌法要させて!」と言った律樹。

「うん、ありがとう」

「じゃあ今日は、そろそろ帰るね」と律樹から離れようとすると、

「寂しいなあ〜」と指を絡ませながら言う。

「帰したくないなあ〜」と、又ぎゅっと私を抱き寄せる。

そして、

「あっ! 着替えを持ってみありの部屋に泊まりに行こうかな」と言い出す律樹。

「は〜?」

「だって、1分でも長く一緒に居たい!」と言う。

「ダメだよ! 明日も仕事だし」と言うと、

「え〜っ! なら週末なら良い?」と聞いた。

「考えとく!」と言うと、

「考えなくても、みありもきっと俺と居たくなるよ」と微笑む。

「どっから来るのよ、その自信は?」と言うと、

「俺たち、同じ気持ちだから」

と真っ直ぐ私をみつめながら律樹は言った。

目を逸らそうとすると、顎を持ち上げられて、

「ん?」と聞く。

そして、そのまま、また、キスをする。

拒否しない!

それが私の心の答えなんだよ。

私も同じ想いだから……

「今日は、帰るね」

と言うと、ようやく納得してくれたようで、

「分かった! 送って行く」と、お酒を飲んだこともあり、アプリでタクシーを呼んでくれている。

2人でマンションの下まで降りると、しばらくしてタクシーが来た。

私が乗り込むと、律樹も一緒に乗り込んだ。

「え? 1人で大丈夫だよ」と言うも、

「俺みありのマンション知らないし、送ってくって行ったでしょ」と言う。

「ふふ」

思わず笑ってしまった。

私が運転手さんに住所を告げると、車はゆっくり走り出した。

すると、黙って手をぎゅっと繋いだ律樹。

思わず顔を見ると、ニコッと笑っている。

それを私は、目に焼き付けるように、ジーッと見つめた。

すると、恥ずかしそうに照れている律樹。

私があまりにもジッと見つめているものだから、

耳元で「そんなに見てるとキスするぞ」と言われて、私の方がドキッとして、前を向いた。

──ダメだ! 久しぶりにドキドキしている

そして、マンションの前に到着した。

「ココかあ〜ホントに会社から近いなあ」

「うん」

「やっぱり泊まる用意を持って来れば良かったな」と言う律樹。

「ふふ、なんでよ!」

「じゃあ、また明日な」

「うん、ありがとう」

「じゃあ、中に入って! 見てるから」と言う。

「分かった! じゃあ、おやすみ」

タクシーの運転手さんに「ありがとうございました」とお礼を言って、

「おやすみ〜」と手を振っている律樹に手を振る。

そして、律樹は又、タクシーに乗って帰って行った。

部屋に入ると、すぐにメッセージが届いた。

〈無事に部屋に入った?〉と律樹からだ。

〈うん、入ったよ!〉

〈了解〜! じゃあ、また明日〜〉

さっき、おやすみ〜と言ったのに、心配症だからか又連絡が来た。

「そういう所、変わらないなあ〜」と、思わず笑ってしまった。

そして、お風呂にお湯を張り入る準備をする。

しばらくすると、

〈俺も到着〜! じゃあお風呂入る〜〉と、

逐一報告してくる律樹。

「ふふ」

〈私も今から入る〉と送ると、

〈一緒に入れば良かった〉と来て、妙に照れてしまった。

そう言えば、もしそうなると……2年ぶり!

「いや〜ん」と1人想像して照れる。

〈上がったら、連絡する〉と、又来た。

「なんで? ハハッ」

こんなにマメだったかなあ?

島田さんより細かい報告をして来るかも……

と思うと面白かった。

私は今、律樹のおかげで笑えている。

やっぱり、再会出来たことが嬉しい!

──好き! なんだよなあ〜

と改めて思った。

「クゥ〜〜〜〜!」

1人、クッションを抱きしめる。

「お風呂入ろう!」

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